2022年5月3日火曜日

清張「父系の指」「流れの中に」を読む3458

松本清張は、私小説で自分をナマのかたちで出すのを不適当と考えているが、
「父系の指」は自伝的なものを色濃く表出した代表作と思える。

山陰伯耆の山村に生まれた「私」の父親は幼児に里子に出された後、その養家
先を出奔。そして、広島で出会った女性と所帯を持ち、「私」が生まれるが、
貧乏ぐらしは続き、下関から九州へと移っていく。その軌跡はまさに著者の生
い立ちをなぞったものに似ているが、物語の後半になるとハレーションを起こ
す。「私」は成長し、商事会社の社員となって、出張のついでに父親の故郷に
赴き、縁者である村の医者を訪ねる。
この、山陰の寒村で幼少時育ち、成長過程で故郷を離れ大人になった父親から
の伝承で、その子供「私」が再訪するテーマは他でも繰り返されている。
リアルっぽい流れだが、あくまで「半分は虚構」なのだ。
清張は私小説と云う手法は選ばなかった作家だけれども、しっかりと構築され
た嘘、フィクションのなかに自らの感情を刻印している。

「流れの中に」もまた、50歳を過ぎた会社員が功労慰労休暇を利用して、小さ
な頃に過ごした瀬戸内の土地を訪ね歩く、記憶をテーマにした小篇。

0 件のコメント:

コメントを投稿