いま、新宿駅西口JR、小田急、京王百貨店周辺は大改築たけなわだが、完成後
には西口高層ビル街の風景を一変してしまうはずだ。
吾輩にとって渋谷、池袋や銀座よりも一番落ち着けて通じるのが新宿なのだ。
先日もJR新宿駅西口地下街から地上に出て、思い出横丁を歩いて新宿大ガード
サイドのトンネルを潜って東口広場に出た。横丁通りは相変わらず外国人観光
客がスマホ片手にあふれかえっている。
東口広場いあっては、二幸からアルタに替わっても長くシンボルだった建物は
消え失せてしまっている。その変貌ぶりに落胆しながら、駅前の中央通り(旧
さくら通り)に渡り、明治通りに出る手前のビルの谷間裏道に、かつての通い
なれた居酒屋跡を探して歩いた。その店は知るヒトぞ知る元祖「でん八」。
大学の先輩アニキと弟が「おでん屋台」をひきながら、贔屓客で育ったので、
おでんと末広がりの八から名付けたという。屋台仕込みの味の染込んだおでん
をつまみに至高の日本酒を飲む正当な酒処だ。
学生時代の終わりから凡そ半世紀、贔屓にして、本当にお世話になりました。
酒処でありながら、カルチェスナックを思わせる趣も混在していた㋤。
木製コの字型カウンターの角に真鍮のおでん鍋がデーンと陣取り、浮いたはん
ぺんの下にはうまそうな大根やつみれ、タコが見え隠れしている。
カウンタのなかにいるのは弟の明弘さん。そのお二人は逝ってしまった。
(『新宿 でん八 物語』大槌の風/発売‣言視舎)