2020年2月18日火曜日

父に想いをはせるとき        2751

父が亡くなった時、祖母から家に伝わる日本刀一振りをわたされた。
祖父は父が8歳のときに急逝し、その後ずっと「母一人子ひとり」で父を育てて
きたから、その引継ぎを僕に託する意向が表裏に表れた。

サイパン帰りの寡黙な父は、裏庭で木刀をふり抜刀の一瞬に賭ける居合を鍛錬し
ていた。師範学校時代の剣道の素養がそうさせたのだろう。

またあるときは、正座して家伝の反りのある太刀をかかげ、手元から尖端の帽子
まで鎬筋と刃紋にそって凝視し一振りする姿があった。
そして仕上はツバキ油を糸綿に染ませた「うち粉」で帽子部分から刃先、刃、刃
文(焼刃)、鎬地、棟にそって気を入れてこするのであった。
その一連の振る舞いに、僕はその清閑な部屋に居つづけることができなかった。

一年に一度ぐらい箪笥の奥から取る出して、「息を吹きかけないよう」父の言っ
ていた言葉を聞きながら美しい文様に魅入ることがある。
そろそろ砥技士に出して置かなくてはならないと思っている。

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