連載(「本の旅人」)で後半の一部を読んだときのタイトルは、たしか『月 にく
づき』だったと思うが、今日入手した単行本では、『月 つき』となっている。
両者のイメージするところは、ちょっと違う。書きすすむ過程で、構想の決着に
変化があったのではないかと思う。
2年前に実際に起きた相模原やまゆり園障がい者殺傷事件に着想した、辺見庸の
小説による世の「常識」をうつ到達点か!
実録風趣の全くない、あえて、「オントロジー、形而上学的に言えば存在論を小
説の形」で問う類稀なる野心作である。
埴谷雄高の『死靈』を継承する流れのなかにあると言って過言ではない。
物語の主な登場者たる語り部は、病床にひとつの<かたまり>として存在し続け
見えず聞こえずまったく動けず、医学的には<思うこと>もないとされる人物。
にもかかわらず、叙述ではかなり自由闊達に自己表出するし、幾重にも分身を一
人称で認識する。このかたまりの<割れ>それぞれの目に映える幻想は、本作の
真骨頂である。

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