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| 書影 |
む。
本書は、村上春樹の父親(90歳)が亡くなって10年後あたりで書いた文章にな
る。身内について書くのは厳しいものがあるといいながら、いつかは取りかか
らなければならなかったことの実現。
導入部で、小学低学年のころ父親との日常の平凡な光景として、海辺に一匹の
成長した雌猫を棄てに行ったことが蘇ると。そのときなぜ家から2㌔ばかり海
辺に大きな猫を放って、あとも見ずにさっさと帰ってきたか不確かだとある。
が、自転車を降りて、玄関の戸を開けると、棄ててきたはずの猫が「にゃあ」
と言って、しっぽを立てて愛想良く僕らを出迎えた。そのときの父親の呆然と
した顔から感心した表情に変わり、最後にはほっとしたような顔になった、と
いう。この小事件のなかに最後まで導く謎ときが込められている。
さらには、父親は毎朝、朝食をとる前に、仏壇(菩薩)に向かって長時間、目
を閉じてお経を唱えている。一度だけ尋ねたことがあり父親は言った。前の戦
争で死んでいった人のためだと。
そしてつぎには、父親の生い立ちや、母親は大阪の船場の古い商家の長女だっ
たことが語られる。
俳句を嗜む父親が戦争体験のなかで苦悶する真意を彼の俳句のなかに探る部分
は大きなヤマ場で謎解きである。
それにしても、辺見庸が自著『1★9★3★7』のなかで近現代史の暗部であ
る日中戦争に焦点をあて、その渦中にいた自分の父親の秘密を自身の身体を賭
した叙述と、歴史の背景に類似するところがあるのに驚き。
僕の読書は『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』
など初期の小説読みでストップしたままだが、この父親について語った本書は
歴史の連続性と戦争へのこだわり、訴えるものがある。




